東京地方裁判所 昭和50年(ワ)11号 判決 1976年10月15日
原告
機械研究株式会社
右代表者
茂岡義雄
右訴訟代理人
菅谷瑞人
被告
株式会社東京機械研究所
右代表者
北村秀信
右訴訟代理人
高芝利徳
外二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判<略>
第二 請求原因
一、原告は、昭和四八年一〇月一五日、訴外Sから、昭和四九年一二月八日存続期間の満了により終了した次の実用新案権について範囲全部の専用実施権の設定を受け、その旨昭和四八年一二月一八日登録を経由した専用実施権者であつた。
考案の名称 水力学基本綜合実験機械装置
出願日 昭和三〇年二月二五日
(実用新案登録願昭三〇―七八一九号)
公告日 昭和三九年七月三日
(実用新案出願公告昭三九―一八七六〇号)
登録日 昭和三九年一二月八日
登録番号 第五八九二二六号
<以下略>
理由
一原告が昭和四九年一二月八日存続期間の満了により終了した本件実用新案権について、範囲全部の専用実施権の設定を受け、昭和四八年一二月一八日その旨の登録を経由した専用実施権者であつたこと、本件考案の登録請求の範囲が別添本件公報の該当項記載のとおりであること及び被告が訴外K産業株式会社から注文を受け、業として被告製品一台を製造し、これを昭和四九年一一月下旬右訴外会社に販売したことは、当事者間に争いがない。
二右争いがない本件考案の登録請求の範囲の項の記載によれば、本件考案は、次の構成要件に区分説明することができる。
(一)1 枠台の内に貯水槽を納め、
2 その側方に水ポンプ及び電動機を備えて吐出水を溢水槽に入れ、
3 これに抵抗損失測定管路及び流量測定管路を取付け、
4 これとマノメーターを接続して
抵抗損失及び流量を測定し、
(二) 枠台の上部に三角堰をつけた水路を取付けて流量を測定し、
(三)1 水路上にベルトン水車を設備し、
2 マノメーターを接続して
ペルトン水車及び水ポンプの性能試験を行う
(四) 実験、試験研究用機械装置の構造。
三前認定の本件考案の構成要件及び被告製品の構造に基づき、本件考案と被告製品とを対比する。
本件考案は、構成要件(一)の1ないし4の装置により抵抗損失及び流量を測定し、構成要件(二)の装置により流量を測定し、構成要件(三)の1及び2の装置によりペルトン水車及び水ポンプの性能試験を行う機械装置の構造であるところ、本件考案の説明書の実用新案の説明の項に、本件考案の説明として、「学校教育において、水力学の基本的実験として下記のごときものが行われる。
1、管路の抵抗損失測定実験 2、流量測定実験 A、オリフイスによる方法B、ベンチユリー管による方法 C、三角堰による方法 D、重量による方法 3、水ポンプの性能試験 4、水車の性能試験 これらの実験装置の個々のものについては周知であり各々適当に製作して行われていたが上記の実験の総てを行う設備を個々に備えることは大規模となり容易でない。本実用新案は上記の実験装置の総てを軽便小型な機械装置にした構造である。」と記載され、次いで本件考案の機械装置の作動及び実験要領が右1ないし4の実験ごとに説明され、最後に本件考案の作用効果の締めくくりとして、「かくのごとく軽便小型の本機械装置をもつて既述の実験の総てを行い得る。」と記載されていることが認められる。右事実によれば、本件考案は、学校教育における水力学の基本的実験である右1ないし4の実験のすべてを行う設備を個々に備えると大規模になるので、これを解決するため、本件考案の構成要件を成す前説明の装置のすべてを軽便小型な機械装置にし、抵抗損失測定、流量測定、ペルトン水車の性能試験及び水ポンプの性能試験のすべてを行い得るようにした構造のものであることが明らかである。更に、本件考案の登録出願について、審査官は、「本願は周知の水力用ポンプ、水槽及び測定器を使用し水力実験装置として各種の実験を行いうるようにしたものであるがこの程度の装置は当業者が必要に応じ考案力を要することなく容易になし得る程度のものにすぎず各種の水力機械及測定器を組合せた点に格別の考案が認められないから実用新案法第一条の考案に該当しない。」との拒絶理由通知をしたところ、出願人は、意見書をもつて、本件考案の機械装置の個々の作用が公知であることを認めたうえ、「本願のように最も効果的に一型に収納し得たる構造は他に例をみず、それ自体新規考案と認むべく個々の公知なる集積と看るべきでないので法第一条の所謂「新規の型」ということができる。……斯る軽便小型装置の考案により据付基礎工事などを必要としないから特別教室をもたざる学校でも容易に設備し得られるのみならず指導も容易且つ教師も少くて済み経費の節減となり実験全般の観察が非常に簡単となる」と意見を述べ、更に上申書をもつて本件考案が小型化の特徴を有する旨の意見を述べたが、審査官は、先の拒絶理由に総合的な小型軽量化に格別の考案が認められないことその他の理由を付加して拒絶査定をし、これに対し、出願人は、抗告審判を請求し、その理由として、「本願の如くそれらの性質作用を同一装置内に於て悉く行い得て、……。即ち本願のように最も効果的に一型に収納し得た各種実験工程を有する構造は他に例を見ず新規考案と認めなければならないので単なる公知の集積に過ぎないものと称すべきものではなく実用新案法第一条の「新規の型」であることは明白であります。……更にこの如き軽便小型装置に集約できた結果、据付基礎工事も必要としないから特別教室をもたざる学校に於ても容易に設備し得られ」と述べていることが認められる。右事実によれば、本件考案は出願人が一型に収納し得た軽便小型装置の構造としてこれを考案したものであることは明らかであり、この点に考案性が認められ登録されたものと解される。
本件考案の構成要件に以上の事実を合わせ考えれば、本件考案は、前説明の構成要件を成す個々の装置が一型に収納された軽便小型の実験、試験研究用機械装置の構造であるといわなければならない。
これに対し、被告製品では、別紙目録の記載から明らかなとおり、本件考案の構成要件を成す前説明の個々の装置のほかに、フランシス水車(13)、発電機(11)、油圧調速機(12)、フランシス水車用ポンプ(17)、電動機(16)、無段変速機(18)、電動機(15)、油圧発生ポンプ(14)、水面計測槽(5)及び自在継手(19)などが備わつており、しかも個々の装置が一型に収納されておらず、また右のように多くの装置から成ることにより本件考案の説明書に記載されている前説明の実験のほかに、フランシス水車の性能試験、フランシス水車による発電実験、フランシス水車用ポンプの回転速度を変化させての同ポンプの性能試験などを行うことができる構造であつて、本件考案のように本件考案の構成要件を成す個々の装置が一型に収納された軽便小型の機械装置の構造であるとはいえないから、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。
原告は、被告製品が本件考案の構成要件を充足していさえすれば、本件考案の技術的範囲に属するのであつて、構成要件でない装置が備わつているからといつて、本件考案の技術的範囲に属しないことの理由とはならない旨主張する。しかしながら、本件考案の技術的意味は前説明のとおりに解すべきであつて、若しも原告の右主張のとおりに解するならば、一型に収納されていない軽便小型でない装置の構造まで本件考案の技術的範囲に属することになつてしまい、これが採用し得ないことは本件考案の考案性についての前説明に照らし明らかである。従つて、原告の右主張は理由がない。
右のとおりであつて、被告製品は、本件考案とはその技術的思想を異にするものであつて、その余の点について検討を加えるまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。
四よつて、被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(佐藤栄一 清永利亮 安倉孝弘)
目録<略>